人は、時の経過とともに姿かたちを変えながらも同一の存在として生き続ける。しかし、重篤な病い、老い、認知症、愛する人との別れ、あるいは「存在の傷」を負っても、そう言えるのか。本書は、社会学者である著者が、カトリーヌ・マラブーとクレール・マランが提示する破壊的可塑性、破局的経験などと対峙し、カフカやデュラスら文学がもたらす思考の可能性とともに、「私」が「私」としてあるということの偶発性、その持続性と脆弱性を問い、新たな人間論を提示する。
鈴木 智之(スズキ トモユキ)
鈴木 智之(スズキ トモユキ)
1962年生まれ。法政大学社会学部教授。著書に、『村上春樹と物語の条件──『ノルウェイの森』から『ねじまき鳥クロニクル』へ』(青弓社、2009年)、『眼の奥に突き立てられた言葉の銛──目取真俊の〈文学〉と沖縄戦の記憶』(晶文社、2013年)、『死者の土地における文学──大城貞俊と沖縄の記憶』(めるくまーる、2016年)、『郊外の記憶──文学とともに東京の縁を歩く』(青弓社、2021年)、『ケアとサポートの社会学』(共編著、法政大学出版局、2007年)、『ケアのリアリティ──境界を問いなおす』(共編著、法政大学出版局、2012年)、『不確かさの軌跡──先天性心疾患とともに生きる人々の生活史と社会生活』(共著、ゆみる出版、2022年)など。訳書に、A・W・フランク『傷ついた物語の語り手──身体・病い・倫理』(ゆみる出版、2002年)、B・ライール『複数的人間──行為のさまざまな原動力』(法政大学出版局、2013年)、M・アルヴァックス『記憶の社会的枠組み』(青弓社、2018年)、C・マラブー『偶発事の存在論──破壊的可塑性についての試論』(法政大学出版局、2020年)、C・マラン『私の外で──自己免疫疾患を生きる』(ゆみる出版、2015年)、『熱のない人間──治癒せざるものの治療のために』(法政大学出版局、2016年)、『病い、内なる破局』(法政大学出版局、2021年)、『断絶』(法政大学出版局、2023年)など。
序章 問いの基点としてのカフカ『変身』
1.存在の持続性と脆弱性
2.不穏な問いの原型としてのグレーゴル・ザムザ──カフカ『変身』を読む
3.「存在論的同一性」とは何か
4.偶有性と本質的属性(は本当に一線を引けるのだろうか)
5.断絶の時代?
第Ⅰ部 破壊的可塑性を思考するということ
第1章 可塑性の二つの顔──カトリーヌ・マラブー『新たなる傷つきし者』、『偶発事の存在論』を読む
1.破壊的可塑性とは何か
2.フィネアス・ゲージの変貌
3.破壊的変形の遍在
4.デュラスの「顔」
5.破壊的可塑性を思考するということ
第2章 コナトゥスの断絶──マラブーとともにスピノザ『エチカ』を読む
1.マラブーからスピノザへ
2.神すなわち自然
3.コナトゥス──それ自身として存在し続けようとする努力
4.コナトゥスの断絶?──「スペインの詩人」についての考察
5.「理性」の力
6.スピノザとマラブーの間
第3章 身体器官としての脳、生存の努力としての情動反応──スピノザを読む神経科学者アントニオ・ダマシオを読む
1.脳神経科学の発展と「神経可塑性」
2.情動と感情
3.前意識的な「原自己」
4.ソマティック・マーカー仮説
5.知識があっても、情動的に分からない
6.「感情」と「情動」の機能停止──ゲージとエリオット
7.スピノザ、ダマシオからマラブーへ
第Ⅱ部 破局的経験としての病い
第4章 生との闘い──クレール・マラン『私の外で』から
1.自己免疫疾患を生きる
2.免疫とは何か
3.自己免疫系の疾患
4.『私の外で』
5.私の生のどうしようもない外部性
第5章 同一性の傷と存在の可塑性──クレール・マラン『病い、内なる破局』から
1.内なる破局
2.生の解体と「規範形成力」──G・カンギレムの生命論
3.同一性の傷としての病い
4.可塑性と規範形成力──マラブーとマランの間
5.「隠れた能動性(activité obscure)」と「習慣」
6.「新しい自己の習慣」の形成としての治療
7.「習慣」としての同一性の破綻と「隠れた能動性」の働き
第Ⅲ部 断たれながら、断ち切りながら
第6章 「断絶」としての出会いと別れ──P・ドゥラブロワ゠アラール『それがサラを物語る』を読む
1.別れ、同一性の動揺
2.別れは身を引き裂く(rupture = déchirure)
3.「断絶の時代」
4.愛する人との別れ
5.ポリーヌ・ドゥラブロワ゠アラール『それがサラを物語る』を読む
6.語りの混沌、損なわれた語り手
7.その人の存在が変容をもたらす、その人の不在が存在を変形させる
第7章 出来事の後の性──フィリップ・フォレスト『新しい愛』を読む
1.性的存在の傷
2.『永遠の子ども』──娘ポーリーヌとの別れ
3.『新しい愛』──ルーとの出会い
4.「新しい愛」の不可能性
第8章 断ち切ることで「自分になる」──シャルル・ジュリエ『ぼろきれ』を読む
1.人間存在の「受動」と「能動」
2.断ち切ることで「自分になる」
3.シャルル・ジュリエ『ぼろきれ』
4.「偽りの自己」
5.「農場」と「学校」──存在に形を与える二つの場所
6.断絶のなかで持続していくもの
第Ⅳ部 断たれながら、続いていくもの
第9章 認知症の人に出会い続ける──「再認の流出」をめぐって
1.断絶的変貌としての認知症?
2.アルツハイマー型認知症とは?
3.アルツハイマー型認知症と人格変容
4.「再認の流出」──M・マレルブ『アルツハイマー──生、死、再認』から
5.断片として残り続けるもの──それを喪失と見るか持続と見るか
6.「同一性」の居場所
第10章 見ることしかできない出来事──ロル・V・シュタインの静謐な変貌
1.『ロル・V・シュタインの歓喜』における「出来事」
2.マランによる『ロル・V・シュタインの歓喜』
3.ただ目撃することしかできない「変貌」
終章 何が問われているのか?──「破壊的可塑性」あるいは存在の「断絶」について思考すること
1.「この時代」の危機の兆候としての「断絶」
2.「虫」に変身する
3.人新世の人間論?
4.思弁的実在論とのつながり
5.絶たれながら、変貌しながら
あとがき
文献一覧
1.存在の持続性と脆弱性
2.不穏な問いの原型としてのグレーゴル・ザムザ──カフカ『変身』を読む
3.「存在論的同一性」とは何か
4.偶有性と本質的属性(は本当に一線を引けるのだろうか)
5.断絶の時代?
第Ⅰ部 破壊的可塑性を思考するということ
第1章 可塑性の二つの顔──カトリーヌ・マラブー『新たなる傷つきし者』、『偶発事の存在論』を読む
1.破壊的可塑性とは何か
2.フィネアス・ゲージの変貌
3.破壊的変形の遍在
4.デュラスの「顔」
5.破壊的可塑性を思考するということ
第2章 コナトゥスの断絶──マラブーとともにスピノザ『エチカ』を読む
1.マラブーからスピノザへ
2.神すなわち自然
3.コナトゥス──それ自身として存在し続けようとする努力
4.コナトゥスの断絶?──「スペインの詩人」についての考察
5.「理性」の力
6.スピノザとマラブーの間
第3章 身体器官としての脳、生存の努力としての情動反応──スピノザを読む神経科学者アントニオ・ダマシオを読む
1.脳神経科学の発展と「神経可塑性」
2.情動と感情
3.前意識的な「原自己」
4.ソマティック・マーカー仮説
5.知識があっても、情動的に分からない
6.「感情」と「情動」の機能停止──ゲージとエリオット
7.スピノザ、ダマシオからマラブーへ
第Ⅱ部 破局的経験としての病い
第4章 生との闘い──クレール・マラン『私の外で』から
1.自己免疫疾患を生きる
2.免疫とは何か
3.自己免疫系の疾患
4.『私の外で』
5.私の生のどうしようもない外部性
第5章 同一性の傷と存在の可塑性──クレール・マラン『病い、内なる破局』から
1.内なる破局
2.生の解体と「規範形成力」──G・カンギレムの生命論
3.同一性の傷としての病い
4.可塑性と規範形成力──マラブーとマランの間
5.「隠れた能動性(activité obscure)」と「習慣」
6.「新しい自己の習慣」の形成としての治療
7.「習慣」としての同一性の破綻と「隠れた能動性」の働き
第Ⅲ部 断たれながら、断ち切りながら
第6章 「断絶」としての出会いと別れ──P・ドゥラブロワ゠アラール『それがサラを物語る』を読む
1.別れ、同一性の動揺
2.別れは身を引き裂く(rupture = déchirure)
3.「断絶の時代」
4.愛する人との別れ
5.ポリーヌ・ドゥラブロワ゠アラール『それがサラを物語る』を読む
6.語りの混沌、損なわれた語り手
7.その人の存在が変容をもたらす、その人の不在が存在を変形させる
第7章 出来事の後の性──フィリップ・フォレスト『新しい愛』を読む
1.性的存在の傷
2.『永遠の子ども』──娘ポーリーヌとの別れ
3.『新しい愛』──ルーとの出会い
4.「新しい愛」の不可能性
第8章 断ち切ることで「自分になる」──シャルル・ジュリエ『ぼろきれ』を読む
1.人間存在の「受動」と「能動」
2.断ち切ることで「自分になる」
3.シャルル・ジュリエ『ぼろきれ』
4.「偽りの自己」
5.「農場」と「学校」──存在に形を与える二つの場所
6.断絶のなかで持続していくもの
第Ⅳ部 断たれながら、続いていくもの
第9章 認知症の人に出会い続ける──「再認の流出」をめぐって
1.断絶的変貌としての認知症?
2.アルツハイマー型認知症とは?
3.アルツハイマー型認知症と人格変容
4.「再認の流出」──M・マレルブ『アルツハイマー──生、死、再認』から
5.断片として残り続けるもの──それを喪失と見るか持続と見るか
6.「同一性」の居場所
第10章 見ることしかできない出来事──ロル・V・シュタインの静謐な変貌
1.『ロル・V・シュタインの歓喜』における「出来事」
2.マランによる『ロル・V・シュタインの歓喜』
3.ただ目撃することしかできない「変貌」
終章 何が問われているのか?──「破壊的可塑性」あるいは存在の「断絶」について思考すること
1.「この時代」の危機の兆候としての「断絶」
2.「虫」に変身する
3.人新世の人間論?
4.思弁的実在論とのつながり
5.絶たれながら、変貌しながら
あとがき
文献一覧




